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名古屋高等裁判所 昭和53年(う)371号 判決 1979年2月07日

本店所在地

岐阜市吉野町五丁目一二番地

法人の名称

マルギタイヨー株式会社

右代表取締役

加藤信治

本籍

愛知県葉栗郡木曾川町大字黒田字往還南五五番地の四

住居

岐阜市戎町二丁目八番地

会社代表取締役

加藤信治

昭和九年三月四日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、昭和五三年九月六日岐阜地方裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官原田芳出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人山本朔夫名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、原判決の量刑がいずれも重過ぎて不当である、というのである。

所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実調べの結果をも参酌して検討するに、証拠に現れた諸般の情状、とくに、本件は、被告人加藤信治が、自ら代表取締役として業務を統轄する被告会社の業務に関し、原判示のごとく、所轄の税務署長に対し、虚偽の確定申告書を提出して、多額の法人税の納付を免れた法人税法違反罪の案件であつて、いわゆる脱税率が高く、その手口・態様が悪質であるばかりでなく、脱税金額も、約二年間で合計一、八〇〇万円近くの高額に達していることなどを総合考察すると、被告人両名に対する原判決の量刑は、いずれも相当としてこれを是認するほかはなく、所論指摘の諸事情のうち、被告会社の規模、経営の状況など肯認し得る被告人らに有利な一切の情状を十分斟酌しても、これが、所論のごとく、重過ぎて不当なものであるとはとうてい認められない。各論旨は、いずれも理由がない。

よつて、本件各控訴は、その理由がないから、刑事訴訟法三九六条に則り、いずれもこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅間英男 裁判官 服部正明 裁判官 木谷明)

○控訴趣意書

昭和五三年(う)第三七一号

被告人 マルギタイヨー株式会社

同 加藤信治

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、弁護人は後記のとおり控訴の趣意を陳述する。

昭和五三年一二月七日

弁護人 山本朔夫

名古屋高等裁判所 刑事第二部御中

被告人両名に対する原判決の刑の量定は不当である。以下詳説する。

第一、被告人マルギタイヨー株式会社について、原判決は罰金四〇〇万円に処した。しかしながらこれは以下述べるが如き情状を考慮するとき、甚々しく重いと言わなければならない。

一、被告人会社は資本金が僅かに金一、〇〇〇万円にしか過ぎない法人で(原審記録一丁)、会社というよりも個人商店と変らない程度のものである。(原審被告人供述調書三丁裏)。

二、その経営状態は月の平均売上高が金二、〇〇〇万円程度でこれに対する諸経費を控除した純利益率は平均一ケ月三%位であるから約六〇万円位の収益である。このような収益状況なのに被告人会社の現在負担している負債は総額約一億一、〇〇〇万円位であり、毎月約二五〇万円位の返済を強いられているもので、被告人会社の経営は大半借入金で資金繰をしているものである(これらの情状については当審で立証する)。

三、本件脱税の結果被告人会社が支払を命ぜられた金員は、本税の追加分、重加算税、住民税等総計金四、六〇〇万円余であるが、これは一部は脱税額を予金してあつた分と外に特に銀行から三、〇〇〇万円を借入れてなんとか大部分納入したが、一部の重加算税と延滞利息については資金繰の都合で分割納付ということにして昭和五三年中に完了する予定である(原審記録六六六丁乃至六七五丁及び被告人供述調書六丁裏・七丁裏、その余は当審で立証する)

四、以上の次第で身から出た錆とは申せ、この度の事件で予金は全部払い出したうえ 更に又三、〇〇〇万円の新しい借金までして何とか罪の償いをせんと最大の努力をしている被告人会社にはこれ以上の資金繰は非常時態となるもので、最悪の場合企業の倒産を招来する危険性を有するものである。そうなれば代表者の家族は勿論従業員の生活、更には取引先にも影響すること確実と言わなければならない。

以上のとおりであるから、かかる情状をしんしやくするとき、被告人会社に対する罰金四〇〇万円は重きに失すると考えるので、原判決を破棄し相当額の減額を求める。

第二、被告人加藤信治について、原判決は懲役六月、二年間の執行猶予に処したが、これも以下述べるが如き情状を考慮するとき、甚々しく重いと言わなければならない。即ち、

一、被告人加藤が被告人会社の代表者としてかかる脱税をなした動機は、過去に倒産の経験を持ち、金のない苦しみを痛切に感じたからであるとのことである(原審における同人の供述調書)この動機には零細企業の苦しみと人間の弱さが見出される。違法と知りつつ企業を維持するため安易な脱税という方法に走つた行為と責任は許されることではないが、今日の厳しい経済状勢の中における零細企業経営者の置かれた立場という観点からこれを考察するとき、その動機には考えさせられるものがある。

二、被告人加藤は現在その行為の責任を充分自覚し、反省して、二度とかかる違法行為をしないことを誓つている(原審における被告人供述調書)

以上の情状をしんしやくするとき、被告人加藤に対する原判決の量刑は重きに失するので原判決の破棄を求める。

以上

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